細胞培養加工施設(CPC)の導入方法・コスト等を解説

再生医療の導入を検討している方の中には、「細胞加工を外部委託するか、それとも自院や独立した施設でCPC(細胞培養加工施設)を導入するか」という選択肢で悩まれている方も多いのではないでしょうか。
外部委託は、初期投資を抑え、患者数の見通しが不確かな段階でも再生医療を始められるメリットがあります。
一方、自院でCPCを保有すれば、治療開始までのリードタイム短縮、品質・スケジュールのコントロール、将来的な治療メニューの拡張など、大きなメリットが得られます。
ただし、CPCの導入には法令遵守、申請手続き、施設設計、人材確保、維持管理など多くの準備が必要で、初期コストは数千万円から数億円に及ぶこともあります。
そこで本記事では、CPC導入を検討する際の全体像・必要なコスト・費用を抑えるためのポイントをわかりやすく解説します。
細胞加工施設(CPC・CPF)とは

まず、細胞加工施設(CPC・CPF)について簡単な説明からスタートしましょう。
CPC(Cell Processing Center)またはCPF(Cell Processing Facility)とは、再生医療で使用する細胞を、無菌環境下で分離・培養・保管するための専用施設です。
CPCで扱う細胞は最終的に患者さんの体内に投与されるため、医薬品と同様に極めて高い安全性が求められます。そのため、空気の清浄度が厳格に管理されたクリーンルーム内で細胞加工を行う必要があります。
日本では「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」に基づいて、CPCの運用に厳しい規制が設けられています。
- 届出:国内の医療機関で細胞加工を行う場合
- 許可申請:医療機関以外(製造受託会社など)で行う場合
- 認定申請:国外の施設で製造を行う場合
これらの複雑な手続きと法令への対応は、患者さんの安全を守るだけでなく、再生医療を提供する上で欠かせない最初のステップとなります。
CPC導入前の準備・検討事項

CPCの導入を成功させるには、「どんな施設を構築し、どう運用するか」を明確にしておくことが最も重要です。ここが曖昧なままだと、設計のやり直しや申請不備が発生し、時間とコストが余計にかかってしまいます。
以下は、立ち上げ時にきめるべき、代表的なポイントです。
1. 施設・物件条件の検討
設置場所の選択はCPC導入の成否を左右します。
以下の物理的条件を早期に確認することが重要です。
- 面積や天井高、耐床荷重が十分か
- 空調・排気設備・電気容量がCPCの仕様に転用できるか
- 動線計画(人・物の流れ)がクリーンルーム設計に適しているか
など、こうした条件を満たしているかどうかを早期に確認することが重要です。
さらに、立地条件そのものも大切な要素です。
培養士や品質管理担当といった専門スタッフの確保は容易ではなく、特に地方や郊外では採用難につながるケースもあります。都市部や医療人材が集まりやすい地域にCPCを設置することで、人材採用・定着をより円滑に進めることができます。
加えて、施工は一般的な建築と異なる要素が多く、CPC特有の要件を考慮する必要があります。そのため、施工業者任せにせず、専門家や現場の運用担当者の声を取り入れながら進めることが、結果的に安全性・効率性・コスト最適化のすべてにつながります。
2. 治療対象と症例数の想定
どの細胞を対象とし、年間どのくらいの患者を想定するのかを決めます。
- 幹細胞、免疫細胞、PRPなど対象の種類
- 年間・月間の製造数
この設定により必要な清浄度やゾーニング、導入機器の台数が変わります。申請書類にも盛り込む内容なので、早めの確定が必要です。
3. 清浄グレードの設定
CPCでは、用途に応じて部屋ごとに異なる清浄度(クリーン度)を設定する必要があります。培養室や検査室では高い清浄度が求められる一方で、倉庫や前室は比較的低い清浄度でも十分です。
重要なのは、「用途に応じて適切な清浄度クラスを設定すること」です。過剰に高い清浄度を要求すると、建設費や維持費が大きく膨らんでしまいます。逆に必要水準を下回ると法令基準を満たせず、施設の認可が下りません。
したがって、どの部屋をどの清浄度に設定するのかを、導入前の段階であらかじめ整理しておくことが、効率的で無駄のないCPCの導入につながります。
4. 人員体制の構築
CPCの稼働には、責任医師、製造責任者、培養士、品質管理担当といった人材が必要です。申請時には経歴や資格を提示することが求められるため、採用・配置計画を前倒しで進めておくことが欠かせません。
さらに、運用開始前に教育・訓練やSOP(標準作業手順書)の整備を行う体制も決めておく必要があります。
5. 設備・機器の選定方針
症例数や人員体制に応じて、バイオセーフティキャビネット(BSC/安全キャビネット:無菌環境下で細胞加工を行うための作業台)やCO₂インキュベーター(細胞が成長するために必要な温度・湿度・CO₂濃度を一定に保つための培養装置)などの必要台数が決まります。
機器台数の目安
- 培養士1人あたり:BSC1台
- 培養士1人あたり:CO₂インキュベーター2〜6台
製造数の増減によって台数が変動するため、メーカーや機種によって性能や保守条件も異なることを踏まえ、比較検討の観点を決めておくとスムーズです。
細胞培養には様々な機器が用いられますが、過剰なスペックを有するものを排除し、実務に即した機能・性能を持つ機器を選定することで、効率的かつ合理的なコスト削減を図ることが可能となります。
6. コストと運用方針の整理
CPC導入には、初期投資(設計・施工・機器導入)に加え、ランニングコスト(空調・フィルタ交換・環境モニタリング・消耗品・人件費)が発生します。
導入コンセプト(最小限で始める/将来的に拡張する/見せる施設とする)を定め、初期投資と年間維持費の目安を持っておくことで、後の判断がぶれにくくなります。さらに、品質試験や定期報告などをどこまで自院で担い、どこを外部に委ねるかも事前に線引きしておくと効率的です。
このように、CPC立ち上げ前には幅広い情報を整理する必要があります。すべてを院内だけで進めることも可能ですが、専門性の高い部分については外部の知見を活用することで、期間短縮やコスト最適化を図ることができ、結果として立ち上げをスムーズに進めることが可能となります。
CPC立ち上げの6つのステップ

CPCを立ち上げる際の流れは、施設の種類によってスケジュールが異なります。
スケジュールの目安
- 届出施設(クリニック併設):約8か月
- 許可施設(独立型):12〜15か月
クリニックに併設する届出施設の場合は比較的短期間で進められます。一方、医療機関とは別に独立した許可施設を構築する場合は、厚生労働省による厳格な審査が必要となり、12か月以上かかるケースも少なくありません。
CPCを立ち上げる際の流れは、施設の種類や規模によって細部は異なりますが、一般的には次のようなステップに整理できます。
導入の目的や対象とする治療法、想定患者数を明確にし、必要な規模や投資額を見積もります。この段階で施設規模の方向性も定めます。
基礎設計・実施設計を行い、清浄度の設定やクリーンルームの動線を検討します。過剰な仕様を避けつつ、必要基準を満たすバランス調整が重要です。
安全キャビネットやインキュベーターなどの機器を比較・選定し、見積もりを取得します。保守条件や運用体制に応じて最適な構成を検討し、発注へ進めます。
設計に基づいて施工を行い、並行して機器搬入を進めます。完成後は稼働環境を整えます。
施設や設備が規定通り機能しているかを検証します。
- 清浄度や温湿度の測定
- 機器動作確認(IQ/OQと呼ばれる検証手順)
- バリデーション(性能検証)
これらは申請時の裏付けとなる重要な記録となります。
施設の種類に応じて申請を行います。
・届出施設:地方厚生局へ届出 → 受理後、速やかに運用開始可能
・許可施設:厚労省への許可申請 → PMDA調査を経て許可取得
※スケジュール参考イメージ

ポイント
- 上記スケジュールは平均的な事例をもとにした目安です。施設の仕様や法令対応、関係機関との調整状況等により前後する場合があります 。
- 特に許可施設では、PMDA調査に2〜3か月程度を要するケースがあるため、余裕を持ったスケジュール設定が重要です。
- 多くの工程が並行して進行するため、全体のプロジェクト管理と関係者間の調整が成功の鍵となります。
導入を具体的にご検討される場合は、早い段階での専門家への相談が効果的です。
CPC導入にかかる費用

CPCの導入を検討する際、最も大きな関心事の一つが「CPCの導入にどのくらい費用がかかるのか」という点ではないでしょうか。
CPCの導入コストは、施設の規模・設計方針・導入機器・運用体制によって大きく変動します。小規模の併設型であれば数千万円から、中規模以上の独立型では数億円規模となることもあります。例えば、80坪規模のCPCでは、2億円近い見積もりが提示されるケースもあります。
(1)初期投資(施工費・機器費)
- 施工費(設計・施工・改修を含む)
施設の新築や改修にかかる費用です。規模や清浄グレードによって変動します。
建物に合わせて設計するパターンと、ユニット型のCPCを当て込むパターンとが一般的にはありますが、建物の構造(天井高等)や換気設備の位置などによっても設計可能な選択肢も施工費も大きく異なります。
【施工コスト例】
①約20坪(66㎡)のCPC施設:施工費2,500万
※年間150件製造想定
②約30坪(99㎡)のCPC施設:施工費3,800万
※年間300件製造想定
③約70坪(232㎡)のCPC施設:施工費6,000万
※年間1,500件製造想定 - 主要機器の導入費用
安全キャビネット(BSC)、CO₂インキュベーター、冷凍保存設備などが中心です。症例数や運用方針に応じて必要台数が変わります。
【機器コスト例】
①約20坪(66㎡)のCPC施設:約1,000万
(遠心機1台、安全キャビネット1台、CO₂インキュベーター2台、保冷庫1台、顕微鏡1台等)
②約30坪(99㎡)のCPC施設:約1,400万
(遠心機1台、安全キャビネット2台、CO₂インキュベーター4台、保冷庫2台、顕微鏡1台等)
③約70坪(232㎡)のCPC施設:約4,000万
(遠心機2台、安全キャビネット4台、CO₂インキュベーター20台、保冷庫3台、顕微鏡2台等)
※CPC内のクリーンルーム及び品質管理試験室、細胞保管室で必要な機器の例。
研究用クリーンルームの機器費用は想定せず。
(2)その他運用コスト(ランニング費用)
以下、CPC関連の運用コストの一例です。施設・規模・環境に応じて、費用は大きく異なるため、事前に前提条件を想定し、数年先を見据えた収支シミュレーションが重要となります。
- 人件費(培養士、品質管理担当者など)
- 環境維持費(光熱費、空調・フィルター交換、モニタリング等)
- 消耗品・試薬・検査費用
コスト削減の工夫
メーカーや施工業者から見積もりを取ると、想像以上に高額に感じられるケースも少なくありません。
しかし、設計や機器選定を最適化することで、大幅にコストを抑えられる事例もあります。
例えば、以下図のように、独立型CPCの導入計画で「2億円規模」と試算されていたものが、エリア、基礎設計、機器構成等の見直しにより、半額程度まで圧縮できたケースもあります。

このように、過剰な仕様を避けつつ、必要十分な基準を満たすことが、初期投資・運用コスト双方の最適化につながります。
しかし、その判断基準は専門的で難しいため、検討段階から専門家の知見を取り入れることが効果的です。
当センターでは収支シミュレーションなどのサポートもさせて頂いております。

まずは外部委託から始めるという選択肢も
費用規模を前にすると、「本当に自院でCPCを構えるべきか」という判断は容易ではありません。
まずは外部委託から始め、症例数や患者ニーズが安定してきた段階で自院導入を検討するという流れも、多くの医療機関で選ばれています。
委託先の紹介や比較検討のサポートも可能ですので、初期段階からお気軽にお問い合わせください。

まとめ
ここまで、CPC立ち上げの流れや導入にかかるコストの目安についてご紹介しました。
CPCを成功させるためには、施設条件や清浄グレード、人員体制、機器選定など、導入前に決めておくべきことが数多くあります。これらを明確にしておくことで、無駄なやり直しや想定外のコストを防ぐことができます。
とはいえ、法令要件や清浄度の基準、機器の仕様は専門性が高く、情報が断片的なままでは判断が難しいのも事実です。患者数の見込みや外部委託との比較など、悩まれるポイントも多いでしょう。
効率的で現実的な導入計画を立てるためには、早い段階から専門家の知見を取り入れることが、結果として時間とコストの削減につながります。
当センターでは、CPC立ち上げの経験を持つスペシャリストによる、初期検討段階から導入後の運営サポートまで、伴走支援が可能です。
「どのくらいの規模で始めるべきか」「本当に自院で持つべきか」といったご相談からでも構いません。まずは情報収集の一環として、どうぞお気軽にお声がけください。
\お気軽にご連絡ください/
記事制作:グローアップコンサルティング事務所

記事監修:魚住 利樹 (CPC設計・導入コンサルタント)
細胞培養現場で管理(製造・衛生・品質)を長年経験した細胞加工の専門家が、法令に準拠したコンパクトかつ効率的なCPC(細胞培養加工施設)の新設・運営・管理を提案。