再生医療で使う培地の選び方|主要メーカーと比較ポイント

再生医療の現場で「どの培地を選ぶか」は、意外と悩ましい課題です。

再生医療の導入コンサルタントとして、私はこれまで多くのご相談を受けてきました。CPCの立ち上げ時だけでなく、すでに稼働中の施設からも「現在使っている培地ではうまく培養が進まない」といったお悩みや、問題発生による急な切り替えの必要性など、その内容は多岐にわたります。

たしかに、培地選びは単なる製品カタログの性能比較だけでは決まりません。培養士の技術、施設の環境、そして患者さんの細胞との相性までが絡む、非常に実践的な判断だからです。

そこで、本記事では、再生医療の臨床で使われる主要な培地を、プロの視点で比較し、選び方のポイントを解説します。提供計画の申請や臨床導入をスムーズに進めるためのヒントとして、ぜひお役立てください。

目次

培地選びの比較ポイント

再生医療用の培地をお探しになる場合、多くの場合はメーカーや販売代理店、あと私たちのようなコンサルタントから情報を収集し、比較したうえでお選びになることでしょう。

そのため、すべての専門知識を事前に把握する必要はありませんが、ここでは培地を選ぶ際に必ず押さえておくべき基本的なポイントを解説します。

再生医療の臨床では無血清培地が主流に

細胞を培養する際には、「培地そのもの」に加えて、FBS(ウシ胎児血清)や患者自身の血清を添加する方法もあります。つまり「血清をどう扱うか」によって大きく3つに分けられます。

  • FBS(ウシ胎児血清)を用いる方法
    安価で入手しやすい反面、ロット差による品質のばらつきや未知の病原体リスク、動物倫理上の懸念があります。また、臨床応用では委員会審査で認められない場合もあります。
  • 自己血清を用いる方法
    患者本人から採血して血清を調製し使用するため、安全性の面ではFBSより優れています。ただし、個人差によって細胞がうまく増えない場合があるほか、患者の採血の負担やコスト面の課題もあります。
  • 無血清培地を用いる方法
    成長因子やホルモンなどを人工的に配合した製剤で、これ自体が「完成された培地」として機能します。別途FBSや自己血清を加える必要はありません。動物・ヒト由来成分を含まない(AF/AOF)タイプが中心で、品質の安定性と安全性が高く、再生医療においては事実上この方法が標準となっています。ただしコストは高めです。

再生医療の臨床応用を前提とする場合は、FBSや自己血清では規制対応や品質の安定性に課題が残るため、無血清培地を選ぶことが主流になってきています。

成分由来の安全性の違いに注目

培地にどんな成分が含まれているかは、安全性に直結します。

  • XF(Xeno-Free)
    動物由来は含まないが、ヒト由来成分(血漿タンパクなど)は入っている場合がある。
    つまり、動物由来成分は避けられるが、ヒト由来成分による感染症リスクや倫理的懸念は残る。
  • AF/AOF(Animal-Free/Animal Origin Free)
    動物由来を一切含まない。リコンビナントや合成成分で構成。
    ヒト由来成分も含まれないため、より規制対応・安全性の観点で有利と考えられる。

ヒト由来成分が含まれる場合には追加の確認や対応が必要となるため、将来的なリスクを減らしたい場合や、より安心感を持って使いたい場合にはAF/AOF対応を選ぶのが望ましいと考えられます。

抗生物質は原則不使用

再生医療の現場では、無菌操作を徹底することが大前提のため、抗生物質は原則不使用です。抗生物質入りの培地も一部には存在しますが、その場合は残留リスクの評価や追加試験が必要となり、申請が複雑になることがあります。

フェノールレッドの有無を確認

pHを色で確認できる便利な指示薬ですが、エストロゲン様作用やEV(エクソソーム)研究で干渉要因になることが知られています。そのため、研究用の一般培養では利便性から広く用いられていますが、臨床用途では不使用が選ばれるケースも多く、状況に応じて有無を確認することが大切です。

接着能・用途との適合性

特にMSC(間葉系幹細胞)の培養では、細胞がどれだけ安定して培地に接着できるかが、その後の増殖効率や品質に直結します。現場でも「今の培地では細胞が増えにくかったが、別の培地に切り替えたら改善した」というケースは少なくありません。

また、培地は汎用ではなく、それぞれに目的が設計されています。

  • ヒト間葉系幹細胞(MSC)向け
  • iPS/ES向け
  • EV(エクソソーム)研究向け

など、想定される用途によって最適な組成が異なります。自院で行いたい治療や研究のターゲットに合致しているかどうかを確認することが、培地選びの重要なポイントになります。

規制への適合性もチェックポイント

最後に必ず確認していただきたいのが、その培地が 規制対応(臨床研究・提供計画申請)に適合したものか という点です。

再生医療等提供計画では、

  • GMP/GCTP準拠で製造されているか
  • 「生物由来原料基準」に適合しているか
  • PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の「再生医療等製品材料適格性確認書」を取得しているか

といった確認も行われます。こうした証明がある製品の方が、審査がスムーズに進むのは確かです。

培地メーカー別製品紹介

ここからは、主要メーカーの培地をいくつかピックアップしてご紹介します。

ただし、ここで挙げる製品が「これを選べば間違いない」という意味ではありません。培地は細胞の特性や施設の環境、培養士との相性などによっても左右されます。

メーカーや代理店がサンプルを提供してくれることもあるので、条件に合いそうな製品があれば、まずは試してみるのも一つの方法です。

フコク |304T

主な特徴
  • Xeno-Free(異種動物由来成分不含)
  • 初代培養時にコーティング不要(高い接着能)
  • 使用時に血清添加が必要(0.5〜2%)
  • 継代性能が高く、長期培養・高密度培養に適する
  • 指定の成分の添加、不含などのカスタマイズも相談可能

メーカー株式会社コフク
製品名FKCM 304T
血清不含(使用時に0.5〜2%添加が必要)
フェノールレッド不含
抗生剤不含
組成グレードXeno-Free(異種動物由来成分不含)
接着能高い(初代培養時にコーティング不要、長期培養・高密度培養に適する)
用途間葉系幹細胞(MSC)の拡大培養(再生医療・免疫疾患分野の研究用途)
規制適合性研究用試薬として提供。臨床応用を検討する場合は適格性確認書の有無などを別途確認する必要あり。
容量500mL
価格28,000円

コージンバイオ|KBM ADSC-4

主な特徴
  • ゼノフリーの完全無血清 CD 培地
  • FBS(血清)を使用しないためロット間差の影響を受けない
  • Ready-to-use(サプリメント添加不要)
  • 初代培養でもコーティング不要(CellBIND 容器推奨)
  • フェノールレッド不含(蛍光染色への影響やエストロゲン様作用なし)
  • ADSC の未分化性を維持しつつ長期培養可能
  • 血清培地に比べ高い増殖性

メーカーコージンバイオ株式会社
製品名KBM ADSC-4
血清不含
フェノールレッド不含
抗生剤不含
組成グレードゼノフリー (Xeno-free)
接着能コーティング不要 ※表記確認
用途脂肪由来幹細胞(ADSC)の培養用
規制適合性・研究用試薬として販売
・再生医療等製品材料適格性確認書 取得済み
容量500mL
価格45,000円

関東化学 |ciKIC® MSC medium TOPs® II or STKシリーズ どちらが良いのか確認

主な特徴
  • アニマルフリーの間葉系幹細胞(MSC)用培地
     
  • 高い増殖支持能
     
  • 再生医療等製品材料適格性確認書を取得

メーカー関東化学株式会社
製品名ciKIC® MSC medium TOPs® II
血清不含
フェノールレッド記載なし
抗生剤未記載
組成グレード無血清、ヒト血清不要
接着能コーティング不要(培養器材への細胞外基質を必ずしも追加する必要なし)
用途MSC 増殖培養用
規制適合性再生医療等製品材料適格性確認書取得済、生物由来原料基準への適合性確認あり
容量500mL
価格35,000円

富士フイルム和光純薬|PRIME-XV MSC XSFM MDF1

主な特徴
  • Serum-free & Xeno-free(血清・異種動物由来成分不含)培地
  • 生物由来原料基準(厚生労働省告示第210号)に適合しており、再生医療等製品材料適格性確認書を取得済み
  • GMP 準拠工場で製造
  • フェノールレッド、抗生物質不含
  • 解凍後すぐ使用可能(Ready-to-use)
メーカー富士フイルム和光純薬株式会社
製品名PRIME-XV™
血清不含(Serum-free)
フェノールレッド不含
抗生剤不含
組成グレードXeno-free、Serum-free
接着能容器コーティング不要
用途MSC 拡大培養用(骨髄・脂肪・臍帯由来 MSC 対応)
規制適合性再生医療等製品材料適格性確認書取得済み、生物由来原料基準適合品
容量1L
価格155,500 円

タカラバイオ |Cellartis® MSC Xeno-Free Culture Medium

主な特徴
  • 動物由来成分を含まないXeno-Freeのヒト間葉系幹細胞用培地
  • プレートコーティング剤が不要
  • 優れた細胞増殖を実現
  • フェノールレッド有無のバリエーションあり
  • 未分化状態を維持した培養が可能

メーカータカラバイオ株式会社
製品名Cellartis® MSC Xeno-Free Culture Medium
血清不含(Xeno-Free=動物由来成分不含と記載)
フェノールレッドあり/なし両方の製品バリエーションあり
抗生剤記載なし
組成グレードXeno-Free(動物由来成分不含)、GMPグレード製品あり
接着能高い接着性、プレートコーティング不要(CellBIND など条件付きで代替可能)
用途ヒト間葉系幹細胞(MSC)の増殖用培地
規制適合性研究用に加え、GMP準拠品ラインナップあり(臨床応用に対応可能)
容量ベース培地容量:475mL 補助添加物:25mL
価格62,000円

ロート製薬 |R:STEM

主な特徴
  • 完全 AOF(Animal Origin Free)培地
  • ISO 20399 規格に基づく FIRM マーク認証を国内第1号で取得
  • ISO 20399を適用規格とするFIRMマーク認証を取得
    ※細胞治療製品及び遺伝子治療製品の製造時に使用する補助材料 一般要求事項
  • 再生医療等製品材料適格性確認書取得済み
  • 抗生物質不含
  • フェノールレッドは「あり・なし」バージョンあり
  • Ready-to-use培地で解凍後すぐに使用可能

メーカーロート製薬株式会社
製品名R:STEM Medium for hMSC High Growth(Ref. No. EM1-500)
血清不含(ヒト・動物由来原料不含の無血清培地)
フェノールレッドあり/なし
抗生剤不含
組成グレードAOF (Animal Origin Free)
接着能指定のフラスコ(Corning® CellBind 表面など)を用いれば、コーティング剤不要
用途hMSC(間葉系幹細胞)の分離・初代培養・拡大培養用。脂肪由来・臍帯由来など複数由来で実績あり
規制適合性臨床研究用(ISO 20399、FIRMマーク、再生医療等製品材料適格性確認書取得済み)
容量500mL
価格66,000円

まとめ

ご紹介しましたように、再生医療における培地選びでは、血清の扱い方、成分の由来(AF/AOFかXFか)、抗生物質やフェノールレッドの有無、接着能や用途との適合性、そして臨床グレード対応かどうかなど、複数の視点で確認することが欠かせません。

ただ、カタログ情報だけで判断して導入してもうまくいかないことも少なくありません。メーカーや代理店がサンプルを提供してくれる場合もありますので、気になる製品は実際に試して、自院の環境や細胞との相性を確かめるのが安心です。

当センターでも、条件をお知らせいただければ適した培地をご紹介できます。培地選びに迷われる際は、お気軽にご相談ください。

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